第5回
院内ネットワークの書面一元化の提案(マニュアルや院内図面、設定などの記録簿作成)【人的な面その2】
公開日: 2018年1月11日木曜日
本コラムの冒頭で、「歯科医院のネットワークがずさんだ!」という問題提起をしました。第5回目をお読みいただくにあたって、改めて第1回目のコラムを読み返していただき、「院内のネットワーク全体を明確に把握している人がいない」という問題が、どのような流れの中で起こっていくのか思い出してください。
今回のコラムでは、その問題点をどのように克服し解決するかのご提案をしてみたいと思います。
問題点の克服法、それは『IT台帳作成』という方法です。
『IT台帳』という概念は一般化された考えかたというわけではないので、解説書などは存在しません。あくまで筆者が「この方法なら」と考え実践しているものを『IT台帳作成』と称して提唱しています。
それでは、このIT台帳にどういった情報を綴っておくのか、1つずつ解説していきましょう。
1.院内図面(ネットワーク配線と機材の配置場所を明記)
筆者が歯科医院にシステム導入に行く場合、基本的には既存のネットワークや端末にできるだけ同居することを念頭において提案するようにします。そうすることで、余計な機材導入のコスト削減もできますし、また新たに別ネットワークを増やさないことで院内ネットワークの複雑化も防げます。
その提案をするためには、現状の院内ネットワークや機材の把握からはじめなければなりませんが、誰も院内の状況がわからない場合は、すべて手探りで現地調査をしなければなりません。その際に図面があればとても作業はスムーズです。
一般的には建築の図面が必ずどこかにあるはずですが、その図面にLANケーブル配線図があればかなり役にたちます。しかし、仮にそれがあったとしても、建築後に配置されたパソコンや周辺機器の配置までは記載されていないでしょう。ここでいう「院内図面」とは、それらをすべて描き込んだ図面のことです。
どこかへ出かけたい時、目的地までの道のりは地図をつかいます。カーナビやスマホのナビなど進化系の地図を使うのは今や常識ともいえますね。図面をつくることは、院内ネットワークのナビゲーションシステムをつくるというこにほかなりません。
図面の描きかたとしては、まず平面図、各部屋の名前もきちんと記入します。そしてその平面図に、
- LANケーブルの配線図
- ケーブルの分岐地点としてのハブ
- ケーブルの末端部分としてパソコン、プリンタ、NAS、ルーターなど
を、そのある場所に描きこみます。
配線の表現は、たとえばインターネット接続されたものと、そうでないものが別のネットワークとして存在する場合は、色をかえてそれを表現するとよりわかりやすくなります。そして各機材には最低限、番号や記号を書きこんでおき、後述する『機材情報一覧表』や『機材個別写真票』で機材の詳細は確認できるようにします。
院内図面の例 |
なお図面を作成する時は、正式な建築図面の描きかたやネットワーク配線図の描きかたなどには一切とらわれる必要はありません。誰かに道案内の地図を描いてあげるのと同じことです。誰にでもわかりやすく見せるのが目的であって、プロのためだけのものではないという視点で描きます。
2.機材情報一覧表
図面の中に、機材の配置と記号まで書き入れたら、その機材の細かい情報に関しては別表をつくって整理したほうがよいでしょう。表計算ソフト(例えばエクセル)などを使って一覧表を作成します。
この機材情報一覧表に入れておきたい項目は、
- パソコンやプリンタなど機材の種類名
- メーカー
- 型番
- ネットワーク上のパソコン名
- IPアドレス
- 購入先
- 購入形態(買い取り、リース)
- 購入年月日
- 保証期限
などを記載したいところです。
もっとも重要視したい項目はIPアドレスです。IPアドレスとは、パソコンが持っている電話番号みたいなものです。ネットワーク上ではそのIPアドレスで機材が識別され、情報がやりとりされます。
皆さんの電話番号は他人と重複することはありませんよね。重複してもらっては困ります。ネットワーク上の機材も同じで、重複するとトラブルがおこります。新たな機材が導入される時に、ネットワーク上のIPアドレスが一覧でわかると、その新規導入での重複を避けたり、細かいネットワーク設定をする時に役にたちます。
また、すべて一括して同じ業者から機材を購入していない場合が多いことから、購入に関する情報も記載しておくことで、故障やトラブル時の対応をわかりやすくすることができます。
機材一覧表の例 |
3.機材個別写真票
リース物件には、一般的にその旨を示すシールが貼ってあります。このようにシールを貼ってその機材のことをわかりやすくすることは、非常に大切で役に立つことが多いです。たとえば先ほど述べたIPアドレスは、確実に貼っておきたいところです。
サーバー機の配線状況について細かくシールを張り、状況を直感的にわかるようにした例 |
また専門家なら、機材を見てそれがどんな働きをする機材かすぐにわかりますが、一般的なユーザーでは、パソコンぐらいはわかっても、ルーターとかNASとかモデムといった機材になると判別はできませんね。なのでそういった機材の種類名も貼っておきます。これにより、ちょっとしたトラブル時に専門技術者と電話でやりとりをする際、たとえば「ルーターの電源を切って再起動してください」などの指示があった時に、識別しやすく、やり取りがスムーズになるでしょう。
それ以外にも、コンセントのプラグにも機材の種類を貼っておくと、たこ足配線の中でも目的の電源の入切がやりやすくなります。
タコ足配線にもシールを貼っておくとわかりやすい |
このように機材をわかりやすくするシールを貼った上で、その外観を多方面から写真撮影し、機材ごとに票にしておきます。写真があると、専門家から電話での指示が細かく出せるようになります。
たとえば電源を切って入れなおす作業でさえ、電源スイッチの場所がわからないことがあります。言葉だけでは伝わらないことも、ビジュアルでやりとりするとより伝わるということです。
また、修理から戻ってきたパソコンの配線も、写真があるとユーザーでもできますね。
4.各種マニュアル
ここでいう各種マニュアルとは、緊急時や重要事項のオリジナルのマニュアルです。
たとえば、ネットワーク上で動くシステムにはサーバー機とそれにつながるクライアント機があるわけですが、もしサーバー機が故障すると、それにつながったクライアント機はすべて使えなくなります。これはかなり深刻な事態です。
筆者はウィステリアというシステムのサポートで歯科医院に関わっていますが、それにはアポイント管理のソフトもオプションで付属します。さてある朝、クライアント機からアポイント管理画面が開かず、サーバー機の故障が判明しました。筆者が現地に行けるのは急いでも夕方。だからといって「すみませんが今日は1日、アポイント管理は使えません」では、現場はとても困ってしまいますね。
実際は、そんな時のために遠隔操作でサーバー機能をサブ機に移して対応する準備をしているのですが、それを行うにも現地医院スタッフの力も借りる必要があります。
そこでその時の手順をマニュアル化しておき、その手順どおりに現地でも動いてもらうようにルール化するのです。
朝の慌ただしい中、短時間でサーバー機能を移すとなるとマニュアルは必須です。事前にある程度のトラブルを予測し、それに応じたマニュアルを準備しておくと安心というわけです。
また別の視点では、院内パソコン使用上のルールも最低限マニュアル化して、統一した意識でパソコンを使うようにした方がよいでしょう。たとえばセキュリティ的なこととして、「各チェアサイドのパソコンでインターネットでホームページの閲覧はしない」など、安全に使うためのルールを箇条書きで定めておくと、新しいスタッフが入ってこられた際のルール伝達も漏れなく簡単です。
なお、レセコンソフトやレントゲンのソフトなどにも付属のマニュアルがあると思いますが、それももちろん重要なので、IT台帳の中にというより、その近くにまとめて保管するのが望ましいと思います。
5.各種契約書類
「インターネットがつながらなくなりました」――こういったトラブルは、歯科医院にかかわらず時々相談が来ますが、ルーターが故障している場合は機材を入れ替えます。その時に、プロバイダから送られてきた接続用のIDとパスワードが必要になるのですが、それらが記載された契約書が手元になく、それらがわからないと、どんなに頑張っても接続は不可能です。
こういった重要な情報を記載した書類は多数あると思います。一括してIT台帳に綴っておくようにしてください。
6.関係業者情報一覧
歯科医院のネットワークに関わるハード面・ソフト面で、多くの業者が関わっていることでしょう。これらの業者の住所録的な一覧表も作成しておきたいところです。
医院から直接業者に連絡をする場合ももちろんですが、業者と業者がやり取りをしたい場合に、この一覧をみれば、何をどの業者が担当しているのかが一目瞭然で、連絡や連携がスムーズに行えるでしょう。
7.その他
その他、たとえばITに関わる専門用語解説集であったり、スタッフ研修会をしたときの冊子も綴ってみたり、必要に応じて追加してみましょう。
* * *
いかがでしょう。院内ネットワークの見える化として、このような内容でIT台帳を作成しておくと、いろいろな局面で役に立ちます。
- 新しい業者・機器をスムーズに導入できる
- 簡単なトラブルの対応を、技術者を待たず院内スタッフだけでスムーズに対処できる
- 院内のルールを定着させることができる
- 故障時に迅速対応できる
などなど、メリットいっぱい!
もちろん、これは専門家の手を借りないと難しい部分がありますので、次回は『かかりつけネットワーク管理者』というテーマに絡めて、『院内ネットワークの見える化』をコラム最終回でまとめていきます。
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