第6回
顧問税理士や社労士のように、「かかりつけネットワーク管理者」をアウトソーシングしよう

公開日: 2018年3月13日火曜日




 さていよいよ最終回となりました。歯科医院のネットワーク管理について、最後は「かかりつけネットワーク管理者」というテーマで話を進めてみたいと思います。

 筆者がこの仕事をはじめた約20年前は、パソコン業界的にはwindows95がリリースされ、一般家庭にパソコンが普及していくスタート地点だったように記憶しています。「これからはこの時代だな」と漠然と軽はずみな決断でパソコンを扱うことを仕事に独立したのを思い出します。

 まだまだその頃は、パソコンをネットワークでつないで気軽に使う時代ではありませんでしたし、もちろん歯科医院ではそこまで身近でもなかったでしょう。2018年となった現在は、パソコンなくして歯科医院の業務ができないといっても過言ではないほどに、「身近」を通り越して「密着」した状況になっています。

 しかしこれまでの連載で解説してきたように「ネットワーク管理」という視点で歯科医院でのパソコン環境を見てみると、それほど真剣にモノゴトがとらえられていない現状があります。
 事実、大企業であればシステム管理部門を独立して維持することはできるでしょうが、一般的な歯科医院という規模ではまず「常駐の社員」というかたちで管理者をかかえることはできないでしょう。
 このような現在の状況を考えた時、顧問的な立場でアウトソーシングする「かかりつけネットワーク管理者」(以下、ICT管理者)が必要なのではないかと思います。

 おそらくほとんどの歯科医院では「顧問税理士」がいらっしゃると思います。他にも「社労士」「行政書士」などもいるかもしれませんし、場合によっては「顧問弁護士」もお願いされているかもしれません。
 ここでお伝えするICT管理者は、まさにこういった職業のみなさんと同じように考えていただければわかりやすいかと思います。


1.誰にICT管理者をアウトソーシングする?


 「ICT管理者をアウトソーシングする」、一見するともっともなことなのですが、現実的には誰に、どこにお願いすればいいのか、きっと想像すらできないと思います。

 税理士や弁護士は、もう長いあいだ一般的に認知され、きちんとした資格を持った人でなければその業務ができないように制度も確立していますが、ここで提唱するICT管理者は具体的な制度もなく、資格も必要ではありません。

 では、どのような人材が適切なのでしょうか? 歯科医院に身近な人でお願いできそうな人はいるでしょうか? ちょっと探してみましょう。


○メーカーの担当者さんはどうか?

 身近なところで探してみると、レセコンやデジタルエックス線写真撮影装置のシステムメーカーさんあたりが良さそうです。実際、皆さんもそれらのトラブル時には対応をお願いしていることと思います。
 しかし、本コラムの第1回で述べたように、「メーカーさんはあくまでも自社製品のトラブル対応」が基本スタンスで、院内のネットワーク構築そのものに関わらない場合もあり、「守備範囲外」のトラブルも多々出てくる可能性があります。

 もちろん、ある程度のことに関してはできるかぎりの手助けをしようと努力してくれると思いますが、大手企業になればなるほど「守備範囲外」の部分に手を出したがりませんし、「立場上できない」という部分があります。
 さらに担当者の転勤を機にそういった部分がさらに稀薄になったり、場合によっては契約がなくなったりすると、「みえない化」が進みます。これは本業の「ついで」にお手伝いをしてくれていたレベルだったために起こってしまう現象です。

 そういったことを総合すると、レセコンやデジタルエックス線写真撮影装置のシステムメーカーさんにICT管理者をお願いすることは現実的ではないかもしれません。


○歯科材料屋の担当者さんはどうか?


 歯科材料屋の担当者さんも、かなりの頻度で顔を出されていると思います。しかし、あくまでも歯科材料屋さんであって、「コンピュータのネットワーク」となるとまったくの畑違いです。


 ……うーん、なかなか歯科医院の身近なところにはICT管理者を託せそうな人はいないようです。


○では誰にお願いすればいいの?


 家を建てる時のことを思い浮かべてください。その現場には必ず「現場監督」という全体の采配を振るう「管理者」がいて、大工さん、左官さん、内装屋さん、電気工事屋さん、配管屋さんなどなど、それぞれの専門家を束ねて、その連携で家ができていきます。

 この現場監督は、家を建てる時にどのような要素が必要で、どんなときに誰に何を頼むのかを総合的に理解していなければなりません。そう考えると、先に述べたシステムメーカーさんは、大工さんや左官さんと同じ立場であり、現場監督ではありません。

 同じように歯科医院のICT管理者にも、歯科医院の業務が円滑に進むように、コンピューターシステム全体を理解している必要があります。

 しかし、こういう理論だてで話を進めていくと、なかなかその人材が見つかりそうもありません。とすると、最低限必要なスキルとして、「コンピュータネットワーク構築ができる人」を探すことになります。
 つまり、レセコンのこと、デジタルエックス線写真撮影装置のことを深く理解する必要はなく、そういったメーカーさんとコミュニケーションをとってインフラ部分の管理ができる人であればいいのです。
 そんな人って、いるのでしょうか? 実は、けっこういるんです。

 皆さんの近くに、ネットワーク構築をされる地元の事務機器屋さんだったり、そういったコンピュータの専門家はおられませんか? 実はそういったところこそが、歯科医院のICT管理者として最適だったりするのです。

 「歯科は専門的な機器がたくさんあって特殊だ」と思いがちですが、ネットワークを流れるデータに違いはありません。
 難しく考えるよりも、基本的にはそういったところに相談してみるのがよいかもしれません。

○筆者も街のIT屋さんです


 第1回目にも述べましたが、筆者はパソコン出張修理やデータ復旧サービスなどを行う街のIT屋さんです。
 ひょんなきっかけから「ウィステリア」というシステムの導入サポートとして歯科の皆さんと関わるようになりましたので、立場的にはレセコンメーカーさんなどと同じでした。
 しかし個人事業主なので、大きな企業では対応しづらいことにも柔軟に対応しやすかった部分があり、現在サポートしている歯科医院様と密な関係を築いてきた結果、いつの間にか歯科医院の「かかりつけネットワーク管理者も兼ている」ことも多くなりました。
 そのため、「ウィステリア」以外のことでも、とりあえず何かあると電話が入ってきます。

 街のIT屋さんは得てして私のような個人事業主が多く、けっこう親身に皆さんのネットワーク構築について相談に乗ってくれると思います。
 少しずつ歯科医院内のネットワーク関連について相談していきながら、ICT管理者を打診してみるといいと思います。


2.アウトソーシング事例をご紹介します


 今回のテーマ「かかりつけネットワーク管理者」(ICT管理者)とは、院長にかわって院内ネットワーク状況を細かく把握して、トラブル対応や新規追加導入などにそなえるということが最大の業務としてご提案しました。
 ここでは、筆者がこれまで院長から受けたご相談や、逆にこちらから提案した具体的事例をご紹介します。


◯設計施工段階からの関わり例


 筆者は最近、ICT管理者の立場で、歯科医院の開業それも設計施工の段階から関わりました。
 一般的に歯科医院の立ち上げ段階では、レセコンやデジタルエックス線写真撮影装置のメーカーさんと、建物の設計士さんや現場監督が打ち合わせをしながらネットワーク部分の配線設計をしていくパターンが多いようですが、従来のパターンに筆者がICT管理者として加わり、ネットワーク部分の現場監督として調整しました。

 具体的には、ネットワーク配線の配管設計はもちろん、パソコンなどの必要機器も、メーカーが準備するもの、歯科医院側で準備するものを仕分けし、医院側購入機材の選択と購入手配もすべて筆者が行いました。

 立ち上げの設計段階からの関わりなので、その後の内情把握が完璧なのはいうまでもありません。筆者にとっても初の試みでしたが、これが最善のパターンであると確信しました。
 これから開業しよう、歯科医院を新築・増改築しようと考えているならば、ぜひ「ICT管理者」の存在を思い出していただければと思います。


◯機器の購入相談


 「どのパソコンを買えばいいか」――これはよく相談される項目の1つです。最近はシステムメーカーさんも「パソコンは歯科医院で独自購入してください」という場合が多いようで、メーカーは必要スペックだけを伝えてきます。
 単純に言えばそのスペックを満たすパソコンを購入すればいいのですが、ポイントは「そのパソコンをどうコスパよく調達するか」です。

 ここでいうコスパとは、単に機器購入費だけではありません。「機器購入費」+「目利き料」+「故障時の対応代行」の全部を含めてコスパがいいか、ということになります。

 筆者のような個人事業の業者では、物品販売で量販店価格に到底かないません。しかし、長年の経験から機器の選択については「目利き」があります。なので、「やすかろう悪かろう」ではない適切価格(つまり安価)な機器を選んで、面倒な故障時の対応もすべてICT管理者に丸投げできるというメリットを実感できるようなプランを提案するようにしています。
 
 なお、いつも安価な機器を紹介しているわけではありません。力不足の機材がある場合は、レベルアップした提案をすることもあります。
 たとえば、インターネットの入り口となるルーター(第2回参照)は、院内のパソコン台数が多くなると、NTTなどが設置する機器や家電量販店で手に入るような機器では到底力が足りないことがあります。そのような場合はあえてそこに少しお金をかけ、規模に見合った業務用を購入してもらいます。
 こういった提案も、ICT管理者として状況把握しているからこそできるものでしょう。


◯クラウド乗り換え相談


 最近筆者が相談された案件で、「院内データバックアップとして外部のストレージサービスを使っているが、容量の増加に比例して月額使用料金がアップし、結構な金額を支払っている。なんとかならないか」というものがありました。

 最近はクラウドサービスの数も増えましたので、他のサービスに乗り換えることで格段に安くなるケースがあります。また、状況によっては院長の自宅をバックアップ場所として使えるケースもあります。
 この案件は現在計画進行中ですが、「ただ安く」だけでなく、安全性など総合的な判断(これも目利きですね)のもとに乗り換えを判断していきたいと思っています。


◯通信費削減相談


 「通信費の削減」も、ICT管理者に相談してみる価値はあります。コンピュータに強い人は、この方面にも強い人が多いです。

 固定電話にしても携帯電話にしても、通信の分野の契約はかなり複雑です。
 電話とファックス番号がわかれていて、自宅も併設していて、セキュリティ会社との通信のことも絡んで、アナログ回線とISDNがごちゃ混ぜになっていたりと、院長も「なぜそうなっているかわからない」という歯科医院はたくさんあると思います。
 また、「光回線へ切り替えませんか?」「◯◯社の携帯電話をお使いなら、◯◯に乗り換えるとこんなにお得ですよ」なんてセールス電話もよくかかってきます。
 意を決してNTTなどの回線事業者に院長が直接電話をしてみても「説明されている意味がまったくわからない」「条件が複雑で本当にお得なのか?」と疑問が生じ、結局、「あとまわし!」「勝手にやって」となりがちです。

 こういったことも、ICT管理者に相談してみましょう。

 通信費は、馬鹿にならないぐらいに無駄をしていることも多いです。
 筆者の事例では、回線事業者とのやり取りを代行して、月額5,000円程度通信費を下げることができました。


3.費用をどう考えるか



 かかりつけネットワーク管理者(ICT管理者)をアウトソーシング、つまり顧問契約をするとなると、契約に関わる料金が発生します。
 月額契約だったり、おそらくIT台帳作成(第5回参照)ともなると、ある程度の作業費がかかったりするはずです。

 今回のテーマにおいて重要なことは、「やりたいこと」と「コスパ」の「バランス」です。
 こういったサービスは、おそらく大手IT企業などでも行っていると思われますが、街の小さなIT屋さん的なところのほうが低コストで融通がききやすいと推測します。

 こういった料金的な部分は、まだまだ一般化された業務ではないので具体的な尺度はありません。皆さんの歯科医院の状況を踏まえて、お互い納得の行く話し合いで設定できるといいですね。


* * *

 さて、歯科医院内のコンピュータネットワークについて、全6回にわたって連載をしてきました。少しでも皆様の参考になれば幸いに思います。
 最後までお付き合いくださいました読者の皆様、ありがとうございました。
 もしコンピュータのことでお困りごとがございましたら、筆者でよろしければご相談ください。
 また、何かの機会でお目にかかる事ができれば幸いです。
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